私と琵琶との出会い

 私が琵琶と出会ったのは、十九歳の頃、偶然耳にした武満徹作曲の琵琶と尺八のための『エクリプス』という曲でした。それまで、ギターをやっていた私の耳には、とても新鮮で今まで味わったことのない不思議な世界を感じさせる曲でした。その時以来琵琶に興味を持ち始め、琵琶を習ってみたいという気持ちが湧いてきました。

 しかし、全く琵琶に関する知識がない私は、まず楽器を手に入れたいと骨董屋を探し回ったり、琵琶を教えている所も方々探し、やっと辿り着いた師匠が、なんと偶然にも初めて聴いた『エクリプス』の演奏者の鶴田錦史師だったのです。

 当時は若いお弟子さんも少ない状況でしたので、私の入門を喜んでくれました。師匠は若い人に芸を伝えていきたいとの思いが強く、お蔭さまで大変熱心に稽古をつけて頂くことができました。一曲を丁寧に時間をかけて仕上げていく稽古で、一年近く稽古した曲もありました。

 また、この時代は邦楽器を使った現代曲が盛んに作曲されはじめた頃でした。私は、琵琶の古典的な稽古を積み重ねていくと共に、五線譜を少し読めたため、色々な作品を演奏する機会も増えていきました。多方面にわたっての新しい曲や演出との出会いは、私の琵琶の世界をより深めてくれました。その中で、浜田さんとご一緒させて頂く機会が度々あり、新しい経験をさせて頂くことは大変勉強になりました。

 さて、琵琶の音色の特徴でもあるあの「ビーン」という何とも言えない響きは「サワリ」によって出るものです。三味線などにもありますが、琵琶は特に印象に残る響きで、全ての音にサワリがついています。サワリによって音の印象も随分変わってきます。絃の下に立つ柱を駒といい、その上をノミで薄く削ることを「サワリを取る」といいます。よいサワリを取るには、ノミを上手く研げなくてはなりません

 私の師匠は女性にもかかわらずノミを研ぐことの名人でもありました。いま私は、プロをめざすお弟子さんには、女性でもノミの研ぎ方を教えています。よいサワリを取れなければ、よい演奏もできないことになるからです。

 そのほかに、私は他のジャンルの楽器との演奏をする機会を通して伝統的な琵琶の音量の小ささを強く感じ、何とかしたいと考え、広い会場でも通用する音量の楽器の改良を思い立ちました

 試行錯誤した結果、私の納得のいく音量の楽器の改良をすることができました。今では広い会場での演奏にも支障なく演奏できるようになり、琵琶の魅力をより多くの方々に伝えることができるようになったと思います。

 最近、私の稽古場ではそれぞれ個性をもったお弟子さん達も育ってきています。それを見ていると琵琶の将来にもいろいろな可能性が見えてきました。琵琶の魅力を感じる十代、二十代のお弟子さんが増えてきていることも、大変嬉しい限りです。

(2006年9月記)